バックカントリーでの雪崩事故防止を目的とした取り組みを推進
特定非営利活動法人日本雪崩ネットワーク(長野県白馬村、理事長:石黒淳)は、「山と自然ネットワーク コンパス」を開発・運営するインフカム株式会社(東京都渋谷区、代表取締役:今 吏靖)と提携し、日本雪崩ネットワークが発表する雪崩情報が更新されたとき、コンパスで登山届を提出された方へ通知が届くシステムを整え、運用を開始しました。また、インバウンドの復活を見据え、雪崩情報の英語化を行いました。
- 背景
1.雪崩情報は、雪山の安全の「社会インフラ」
ごく一般的な登山者やバックカントリー滑走者の雪山での活動日数はシーズンで4~5日程度です。しかし、このぐらいの経験では、現在、積雪の状態がどのようなものであるのかを的確に捉えるのは難しい面があります。このため、雪山に入る人をサポートする「社会インフラ」として、欧米各国では公的機関あるいは非営利組織が雪崩情報を発表しています。弊組織の雪崩情報もこの考えに基づいています。
また、雪崩情報は発表するだけでなく、それを適切に理解した上で利用していただくことが重要です。このため、欧米の雪崩教育プログラムは、雪崩情報が組み込まれたものになっています。弊組織もそれと同様に、雪崩安全セミナー「アバランチナイト」や雪上講習会「セイフティキャンプ」など、一般対象の教育プログラムを通して、雪崩情報の理解が進み、効果的かつ適切な利用が進むように努めています。このような包括的な雪崩安全対策を実施しているのは国内では弊組織のみです。
2.活動人数の増加と多様化が進む雪山利用者
滑走用具の進化により、新雪滑走が手軽に楽しめるようになり、滑走者の志向が変わりました。これに伴い、スキー場においても新雪コースの設置などが進んでいますが、同時にスキー場の外(バックカントリー*)へ向かう人も増えています。また、コロナ問題を契機として登山のライトユーザーが増え、その方々が雪山へと進むことも見て取れる状況になっています。さらに、コロナ規制の緩和と国策としてのインバウンドの増加なども迫っています。こうした活動人数の増加と、その行動の多様化に対応する必要があります。
3.協働による安全対策
登山やバックカントリーでの滑走において、行動計画の作成の重要性は以前より指摘されており、いろいろな啓発が行われてきています。この問題に関して、オンラインで登山計画を作成でき、それを登山届として提出できるシステム「コンパス」は、その先駆者として広く利用されており、多数の行政機関や山岳組織との提携も進んでいます。弊組織では「冬山行動者の安全管理の一つに雪崩対策がある」との考えから、コンパスと提携することで、その全体的な安全対策の向上を考えました。
*バックカントリースキーは100年以上の歴史がある「山スキー」と同義です。バックカントリースキーのことを「コース外滑走」と定義することは、スキー場内にある「閉鎖区域での滑走」であるのか、あるいは、滑走することが全く問題ない「山岳エリア(場外)での滑走」なのか誤解を招き、スノースポーツに対する社会からの適切な理解を阻害します。さらに、この誤謬は、スキー場および雪山における安全対策と教育の障害となっています。メディア各社様におかれましては、その表現にご配慮いただきますようお願い申し上げます。
- 内容
1.コンパスとの提携
「コンパス」マップでルート設定した登⼭計画を作成し、そのルートが弊組織が発表する雪崩情報の区域内に⼊っていれば、毎朝、雪崩情報が更新された際、登山日に提出者へ通知が届くシステムです。弊組織の雪崩情報の発表は以下の山域と日程を予定しています。
●発表区域と予定期間●
白馬(長野県):12月24日~4月初旬(毎日)
妙高(新潟県):12月末頃~3月下旬(毎日)
神楽ヶ峰・谷川岳・武尊山(新潟県・群馬県):12月末頃~3月下旬(毎日)
ニセコ・羊蹄山・余市岳・尻別岳(北海道):12月13日~3月下旬(火・木・土)
2.雪崩情報の英語化
発表される雪崩情報は英語化を行い、海外からJAPOWを求めて来日する方にも利用しやすいものとしました。弊組織の雪崩情報は、欧米と同一形態のため、その理解における齟齬や誤謬が発生しにくく、その効果が期待されるところです。さらに、雪崩情報の利用を推進するため、英語をメインキャッチとしてポスター(A2サイズ)を作成し、発表区域内にあるスキー場や施設等への掲示を進めています。
- 日本雪崩ネットワークの雪崩情報
欧米の公的機関あるいは非営利組織(19カ国33機関)で発表されているものと同じ標準化された雪崩情報です。欧米では予報の形態ですが、弊組織の情報は現況としています。この情報は、雪山で行動する人に対し、現在、雪崩の危険度がどの程度あり、どのような種類の雪崩に気をつけて行動すべきなのかについて、具体的な内容を伝えることで、フィールドでの行動判断をサポートすることを目的としています。
国際標準の雪崩危険度区分を使用
その日に警戒したい「雪崩の種類」が、どの標高帯と方位にあるのか、そして、その雪崩の「誘発の可能性」と、発生した場合の「規模」をグラフィカルなイラストで表現しています。これにより、行動者はフィールドで、どのような「地形選択」がより良いのかを理解することができます。
ホームページでは発表されている雪崩情報を地域で絞り込むことができます。これにより、雪崩危険度の推移が一目でわかりますので、週末に向けた行動計画の立案に役立てることができます。
【日本雪崩ネットワーク】
日本雪崩ネットワークは、行政機関も関わるカナダの雪崩専門組織であるCanadian Avalanche Associationと2001年に提携し、山岳ガイドやスキーパトロールなど現場実務者の人材育成を進めてきました。また、山岳における積雪コンディションの情報共有を進めると同時に、Parks Canada(カナダ国立公園)にて雪崩予報官として働く専門家を招聘するなど、国内における雪崩情報発表の準備を進め、2012シーズン、白馬山域を皮切りにその提供を開始しました。その後、順次、発表エリアを増やし、現在、全国5つの山域で雪崩情報を提供しています。
【山と自然ネットワーク コンパス】
⼭と⾃然ネットワーク コンパスは、登⼭者や自然探訪者向け登山届システムを核とする⼭岳情報ネットワークサービスです。全国の自治体や警察と連携するネットワークであると同時に、日本の山岳4団体*と共同で、新たに「山岳安全対策ネットワーク協議会」が立ち上がりました。協議会では、公益事業として山岳安全対策の一翼となるコンパス登山届システムを全国共通のプラットフォームとして整備し、他の山岳関連サービスとのシステム連携、及び自治体や警察等との連携を図るなど、登山届提出率の改善、及び山岳事故遭難防止に向けた普及啓発活動と共に、登山者及び自然探訪者の安全安心に資する活動を行います。
*公益社団法人日本山岳ガイド協会、公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会、公益社団法人日本山岳会、日本勤労者山岳連盟
謝辞:弊組織の雪崩情報の提供に関わる各種ウェブサービスの拡充は、TIS×日本NPOセンター・TechSoup協働事業 助成プログラム&デジタル基盤強化プログラムの助成によるものです。